「ボーン・トゥ・ファイト」

 前情報がなんにもなかったので、ド肝抜かれた。何が?最初の30分の展開が。

 のっけから激しいアクション。オトリ捜査が一転ピンチになってアクション、という王道のプロローグ。これがすさまじく体張ったアクションで、走るトラックから落ちる落ちる。で、「バッド・ボーイズ2バット」でハリウッドがやってた「ポリス・ストーリー」の完コピな、斜面のバラック村大崩壊なカーチェイス

 とはいえ、正直、「マッハ!!!!!!!」で我々は命が安い国にだけできる映画がある、というのをすでに知ってしまっているわけで、うーん、どうだろう。確かに命はってるんだけど、それだけじゃ・・・という感じがしていたのでした。

 とおもったら、主人公の刑事はスポーツ選手の妹について行って僻地の村の慰問。ボランティア。この場面にまずびっくらこいた。アクション映画の予感がまるでない、政府広報のようなボランティアの点描。ドラマが停滞。にもかかわらず登場人物ボランティアしまくり。毛布配りまくり。「寒いでしょう」とかいいながら延々と毛布配る。人形とか子供に配りまくる。和む。すさまじく和み過ぎてこの映画がなんだったか忘れかける。というかこの映画俺何か知らないし。とにかく異様に和みシーンが延々と続き、ちょっと粗暴な村の若者が、思いを寄せる村娘とボランティアのスポーツ選手が仲良くしているのを怒って喧嘩したりする。和む。この和みかたが異様すぎる。

 そこへ、きわめて唐突に軍隊登場。村人バッタバッタ。ジェノサイド。ハリウッドみたいに威嚇とかしない。もう「ヒィーハハァー」状態で虐殺天国。村制圧。ハリウッド映画とかに慣れていると、ここが無茶苦茶ブルータルでびびる。だって、政府に要求とか出してネゴシエーションとかうまくいかなかったとき、ふつうは1人ずつ人質殺していったりするじゃん?この映画そういうことしない。「われわれをナメるとこうだ」といってAKで6人単位で射殺。もうプライベートライアンとかシンドラーとかそういうレベルじゃない。とにかくエクスペンダブルに村びとがバッタバッタ。

 「マッハ!!!!!」で「命が安い土地だからこそ」できる映画がある、といろいろな人が思ったものだった。しかし、どうやら作劇の上でもそうした感覚は生きているようだ。本当に虫けらのように村びとが殺されて行く。アメリカ映画だったら、日本映画だったら、1人の人質をテロリストが殺すまでに、ありとあらゆるドラマ的なタメを作って、この人が理不尽に殺されるのは現代文明にあってはものすごい大変なことなんです、という感じにある程度したうえで、やっとこさ1人殺され、観客は悪役に対する怒りをもたされる。この映画はそんなことはしない。ドカドカ死ぬ。この「エロス+虐殺」ならぬ「和み+虐殺」のコントラストがヘンすぎて、ここ最近の映画ではひさしぶりにびっくらこいた。なんなんだこれわ。

 で、刑事が1人逃れたところで、まあいわゆる「ダイ・ハード」パターンの映画か、とと思っていたら、この映画、最後は戦争映画に突入するという、予想の斜め上30度を行く展開にもう一回びっくり。

 タイってヘンな国だ。ちなみに、この映画はゲッベルスもびっくりのゴリゴリな国威発揚映画でもあり(村人が銃撃戦の中、国旗を掲げて走る!)、そこがまた「ヘンなものを見た」という感覚を強めてくれて、とにかく奇妙な映画を見てしまったとしか言い様がないです。スタントがすごい、とはまあ、確かに言えるかもしれませんが、そういうのは「マッハ!!!!!!!」でもうおなかいっぱい、別に驚きはいまさらないです、正直。しかし、この映画にはそうしたスタントがどうとかいう以前の、異文化に触れてしまった衝撃があります。ヘンな映画みたいひとにはオススメ。すごいヘンです。