倒れた

 会社に行こうとしたら電車のなかで嘔吐感マックス、途中で降りるもどうにも動けず、駅のベンチに横になってどうにかなるのかならないのかというちょい恥ずかしい状態で30分、吐き気、頭ぐらぐら、ゲーリーオールドマン、と三重苦のジェットストリームアタックに、ホームステーションへなんとか戻ると病院へ直行。とはいえ1300時という休診時間ど真ん中。開いている内科のある病院を探してさらに30分。「うーん、扁桃腺が腫れてるけど、風邪かなあ。でも腸も悪いようだし、うーん。なんでしょう」とか言われていや、なんでしょうって言われても、と不安になる。とりあえず点滴。とりあえず急性腸炎というあたりで医者は手をうった(ほんとそういう感じで診断)。実はここの病院は俺の太腿のガンを「ヘルニア」と診断して延々と俺の腰を牽引したり電気を流したり効果のない治療をして、あのままここにかかっていたらガンが俺を殺していただろうというわけで、この病院を俺が怨んでいることは内緒だ。というわけで点滴1時間。すげえ寒気。腕を縛るも「血管が出ないわねえ」と看護婦さん手の甲に針刺す気マンマン。いや、それ勘弁して。という心の叫びもむなしく、結局右の人指し指の付け根の甲側の関節の出っ張り直下に一撃。しかし雫は落ちず。おのれどうしてくれようか。という俺の心の憎悪もむなしくこんどは左手の手の甲。かんべんしてくれ。

 さて、ここで余談ですが、ガンにかかって抗癌剤を点滴すると、どんなすばらしい特典があるかを教えてあげましょう。抗癌剤というの基本的に組織を殺す薬なので、針刺しているところは濃度マックス、ガンガン血管と皮膚が痛んでいくわけです。というわけで、一ケ所当たり(薬にもよりますが)3日から5日保ちません。刺していたところは組織がズダズダになっているので、たいていの場合血栓になり、血管がつぶれます。そうすると次の場所、次の場所、といって長期戦になると刺すところがだんだんなくなっていくわけです。最初は肘の内側だったところからだんだんと末端へサバが帰ってくるように北上し、ついには手の甲にたどりつくわけです。そして刺していったところは死屍累々。私はケロイド体質なので、傷の痕がプリチーにプルンと盛り上がってしまいます。ちなみに、腕で刺すところがなくなりと、次は足の甲です。足の甲に針を刺すのです。

 とはいえ、薬を入れているあいだは絶えまない吐き気がすんばらしい具合に世界を支配してくれているので、針を刺す場所の問題などプライオリティはとんとん下がってほとんど最下位なわけですが。

 ちなみに、私は一ヶ月に10日入院して抗癌剤点滴、というのを1年やっていたわけですが、そのたびに抜ける毛の場所が違ったのが面白かったです。頭髪は総じて抜けたわけですが、今回は眉毛も、今回は脇毛、今回はチ○毛、今回は鼻毛、あるいはそれらの組み合わせ、と毎回抜ける場所が違うのです。ちなみに、頭髪が抜けると、頭洗うのがすげえ楽になります。フケ、というのはたぶん、頭髪あるいは毛根によって頭皮がフラグメント化されているからああいう形式になるのであって、それが頭髪のないフラットなフィールドになると単なる「垢」になるのですな。爪で引っ掻くとそれが良くわかる。鼻毛が抜けたときは埃がすごくて鼻水がとまらなかったです。脇毛と陰毛は抜けてもなんも問題なかったので(彼女というものがいなければ、誰に見られるという場所でもないので)、すこし嬉しかった。毛ってあんまり好きじゃない。

 余談終わり。というわけで、多分単なる風邪なのでしょうけど、いまも熱がすばらしく高い数値を保っており、あたまぐらぐらで寝ながらこれを書いているわけですが。