ブラザーズ・グリム

やはり突出して面白いのピーター・ストーメアだ。「コンスタンティン」でルシファーを茶目っ気たっぷりに演じたこのおっさんはスウェーデン人なのだが、奥さんは日本人で、「アルマゲドン」ではロシア人を演じ、今回「ブラザーズ・グリム」ではナポレオニックなフランス統治下のドイツを治めるフランス人将軍の部下のイタリア人、というなんだか錯綜した設定の人間を演じていて、もうわけがわからない。

アメリカ映画でイギリス人がフランス人(ジョナサン・プライス演じるフランス軍の将軍)を演じ、フランス人はドイツ人の魔女を演じ(モニカ・ベルッチ)、オーストラリア生まれのヒース・レジャーアメリカ人のマット・デイモンがドイツ人のグリム兄弟を演じ、スウェーデン人がフランス人の部下のイタリア人を演じる。ギリアムはギリアムでアメリカ人だがイギリスのモンティ・パイソンで世に出た人物だし、住まいは確かイギリスだ。

書いていてわけがわからなくなってきた。

ちなみに、モンティ・パイソンっぽい(一生言われ続けるギリアムさん、すみません)ことに、各国別国辱ネタがけっこうあって、フランス人と言えばカエルだし(微妙に伏線ではある)、ドイツ人は血のソーセージを嬉しそうに出すし、イタリア人は××だ(ネタバレにつき注意)。アメリカとイギリスが話の設定上関係ないこともあって、各国が均等に馬鹿にされている(「平等に価値がない!サー、イェッ・サー!」)。

なんというか、ギリアムのネタ大会という気がしなくもない。間合いに入るギャグもほんとうにくだらない。ストライダーなヒロインは主人公たちを前に獲物をざくざく解体して内臓をデロデロと取り出し捌くことに余念がないし、舞台はナポレオンの治世と言いつつかなり考証があいまいで、特にメインの舞台のドイツの田舎に行ってからは「ジャバーウォッキー」化してしまう。笑えるほどすてきなメイクの婆さんが禍々しく凶兆を語り出す。ストーメア演じるイタリア人は拷問大好きだし、ジョナサン・プライス演じるナポレオン軍の将軍(「ブラジル」で抑圧されていた彼が同じ監督の映画で抑圧者を演じている、というのは、ジョン・グレンからユージーン・クランツに出世したエド・ハリスみたいなものでせうか)は、間違って拷問機に巻き込まれた子犬の肉片をぺろりと舐め「レアだ」とかいうキチガイで、大変すばらしい。

史実のグリム兄弟とは何の関係もないフィクションだけれども、いろんなグリム童話のネタが均等に取り入れられていて、そこらへんの発見大会も面白いかもしれない。

比較で言うとこの世界で一番まともな人間は主人公のマット・デイモン演じるインチキエクソシストなのだが(弟は深いトラウマに捕われている)、それも比較論でしかなく、要するにこの映画は全員にネタを均等に振り分けた結果、全員が狂っているというたいへんすばらしいことになり、ただしよく考えるとギリアムの映画にまともな人間が出てきたことなど一度もなく、そういう意味ではいつもと一緒。ただし、撮影がロジャー・プラットではないせいか、いつもの魚眼ステディカムでカメラがぐりぐり動き回るあの「ギリアムカメラ」は比較的抑えめといえるかも。

とにかく品のない、というかお下劣な、いつものギリアム映画でしたが(物語は「バンデッドQ」並のお子様向けなのだが、描写が泥とゲロと内臓と肉片と蟲と生首というアンバランスさがまた大人げない)いや、正直「チャーリー〜」よりずっと好きだね。少なくとも、バートンと違ってこいつだけは、ギリアムだけは、ぼくらを置いて大人になることなんか間違ってもありえない。物語は現実より強い、といういつものネタを、この歳になっても信じて、繰り返している男だ。

どうでもいいけれど、フランンス軍が森を砲撃する場面で異様に興奮した。