東京ファンタ(1)

というわけで、K社KプロKさん(略してKKK、とか。嘘。)と「カースト」「蝋人形の館」、秘宝ナイト、ひとりで「惑星大怪獣ネガドン」を見てきた。秘宝ナイトではMGS4のトレイラー(TGSのやつ)が上映されるので、小島、村田両監督以下K社の方々も来場。

ひさしぶりにお会いした小島監督ユニオンジャックのシャツを着ておりました。村田監督は相変わらずかっちょいい方でした。以前お会いしたときよりも痩せたかしら。司会のいとうせいこうがメタルの発売日について適当な(来年とか、PS3と同時じゃね、とかありえないこと)ことを言っているとき、私の横の椅子でムラシュウさんが激しく頭を抱えておりました。

さて、上映されたMGS4予告編について触れておきませう。なにせミラノ座の、都内屈指の巨大スクリーンです(だからファンタでもパンテオンの後継に選ばれたのでせう)。実はMGSの予告編がファンタで上映されるのはこれがはじめてではなく、MGS2のときも(いまはなきパンテオンで)やったことがあるのです。ただし、そのときは「デジタルコンペ」みたいなオールナイトの一環で、画質的にもその上映全体がNTSCからスクリーンにテレシネされたものがほとんどだったので、別に気にはなりませんでした。

しかし、今回はそういう前提はありません。

さて、この上映でわかったことは「PS3ならば、劇場サイズでゲームをやることが可能である」ということです。ハイビジョン、5.1chで製作されたデモなのですから当然といえば当然ですが(「イノセンス」は実はハイビジョンよりも解像度が低い)、それをPS3が、実機で、リアルタイムレンダリングすることが可能である、という事実に、やはり愕然とします。劇場サイズの上映に耐えうる映像を毎秒60フレーム生成することができる、という事実に。これは前もってレンダリングされた「アドベントチルドレン」ではないのです。60/1秒ごとに生成される実機の映像なのです。

ただし、気を付けておきたいのは、これは無論、小島・村田両監督以下小島プロスタッフの優秀さの賜物であって、決してPS3のパフォーマンスによって可能になるものではない、ということ。

PS3とて、キャッシュは無限ではありませんし、演算できるポリゴンとて限りがあることはあるでしょう。その限られた資源を、いかに「重要な場所に」投入し、単純化するところは省くか。それが映像全体としての「印象」を高める技術であり、それを一言で表現するならば単純に「演出」という言葉になります。

それはすなわち「誤魔化す技術」ということでもあります。建物は無限に建てられないし、ディテールは無限に細かく出来ない。実はゲームも、そして実はアニメも、映画と似たような制約があるのです。御存知、押井パトレイバーの初期OVA一話は、「あんなデザインのロボットを作画したら破綻する。東京をまともに背景美術で描いたら地獄を見る」ということで、ロボットを「動かす」までの話にしたり、埋め立て地の話にしたり、という演出上の勝算を押井さんがつけたうえで制作されたのです。そんな制約の中で、観客にいかに「凄い」と感じさせることができるか。このトレイラーの場合、スネークのスーツにものすごいポリゴンが投入されているわりに、崩れた壁の断面などは大分単純化されております。あと、これまでのメタルギアシリーズで際立って優秀なのがエフェクトとカメラワークだと私は思うのですが、今回も砂塵やフォグのような砂嵐など、臨場感を際立たせるとともに、遠くのディテールをはっきりさせないようにする処理がなされており、カメラの疑似ライブ感(手持ちなどで生じるブレ、カメラマンが「その場で」状況に対応したかのような疑似ドキュメンタリーとしてのクイックズーム)も「2」や「3」に比べさらに洗練されています。

映像というものは「いかに見せるか」というのが重要であって、明らかにポリゴンの精度だけで言ったらメタルより高い(まあ、実機でない可能性があるから当然ですが)「Killzone」よりも、MGS4のほうに注目が集まっている、すなわち観客にインパクトを与えているのは、その「架空の現場の段取り」を想定しているか否か、ということなのだと思います。つまり、「撮影しているという状況そのものの物理的制約」に対する想像力、とでも言えばいいのでしょうか。明らかに現実より情報密度の低いCGにおいて、「二次映像である」ことを意識することは重要で、「映画的」と言われるものの実相は、ある映画を参照しているということも含めて、CGであるがゆえに「できるからってありえないカメラワークはあえてしない」という、「現実に撮影すること」を生々しく想像することからうまれるある種の制約、規範にあるのです。