「4th MEDIA(フォースメディア)対応の大型液晶テレビ欲しい!」早川文庫

「パパの原発」のマーク・レイドローの書いたシンギュラリティもの。うーん、でもシンギュラリティなスペオペってワンパな気がしませんか。いや、まだ「シンギュラリティ・スカイ」と「ニュートンズ・ウェイク」しか読んでませんけれど。「ニュートンズ・ウェイク」はちょっとアレな感じだったし、ストロスのシンギュラリティが受けたのもハッカーカルチャーへの目配せみたいなものがけっこうあったりするような気がして、果たして得意点突破世界というのはどれくらい魅力があるのかというと、私としてはちょっと疑問符がついております。

とはいえ、サイバーパンクを茶化した「ニュートリマンサー」を書いたレイドローのこと、これも一種の「シンギュラリティもののパロディと言えないこともない。フォースメディア、というのは、FTLネットワークちゅうかハイペの「真空の絆」ちゅうか、まあシンギュラリティ後に神AIが生み出した相対論無視ネットワークの名前。ファーストメディアからサードメディアがなんだったのかは作中で一切フォローなし(まあ、作中に「デッドメディア・アーカイヴス」と呼ばれる旧世紀のメディア墓場が出てくるんですけど)。

この時代ですから、当然液晶テレビはおろか平面状に画面表示するということそのものが消滅しているわけです。主人公は元情報軍特殊部隊員にして退役後は趣味のデッドメディア研究にどっぷりつかっているスターリング大佐。このスターリング大佐がグーテンベルグの聖書から液晶テレビに至るまで、さまざまな「死んだメディア」を探索して銀河系を渡り歩くという、それだけの話なのですが、作中でこの大佐が事あるごとに「4th MEDIA(フォースメディア)対応の大型液晶テレビ欲しい!」とかほざく様はなかなか笑えます。ぺらぺらでくにゃくにゃであることがクレジット価値に直結する「ぺらぺら国家」ことユニオン・オブ・5.25インチ・ピープル(U5.25IPs)で窃盗の罪で裁判にかけられる場面では、「4th MEDIA(フォースメディア)対応の大型液晶テレビ欲しい!」「4th MEDIA(フォースメディア)対応の大型液晶テレビ欲しい!」と被告人陳述で某教祖のごとく錯乱状態になり、「4th MEDIA(フォースメディア)対応の大型液晶テレビ欲しい!」を計52回絶叫、作中最もシュールなシーンになっております。

最近のシンギュラリティ物に疲れた人には、息抜きにちょうどいい軽さの一冊ではないでしょうか。