初期OVA「パトレイバー」押井守コメンタリーつき
「王立宇宙軍(山賀&赤井孝美)」「うる星やつら2:ビューティフル・ドリーマー(押井)」に続く、US MANGA CORPSオリジナルのコメンタリーつきDVD。日本ではこれらのコメンタリーは聴くことができないので、リージョン1再生環境と輸入DVD屋でなんとかするしかないのである。
しかしMANGAのDVDは日本のアニメのDVDに見慣れているとえらく品質が悪い。BDなどは発色もひどいうえに、24→30fps変換をまじめにやっていないので、残像をひいているような無茶苦茶な映像だったりする。とはいえ、これらのソフトは日本版を買った上であくまでコメンタリー目当てに買うのだから、どうでもいいっちゃどうでもいいんだけど。
さて、3話ずつ×2巻BOXのDisk1、つまり最初の3話にコメンタリーがついています。肝心の内容のほうは、ディープな押井ファンには既出の内容が多々。なぜ埋め立て地なのか(とにかく予算がなかったので、車やビルや通行人を描かなければならないような作画は破滅するとわかっていたので、という話。美術も作画も、ややこしい絵を書くのはお金がかかる。『なんでも描ける』と思われがちなアニメも、意外に実写と同じようなロケーションの制約があるのだ)、とか、ややこしいロボットを動かすとこれもまた破滅するので、渋滞で積載トレーラーが動かない、という話にした、とかそういうところ。
面白かったのは、それぞれのキャラやスタッフに対する愛憎だったりする。たとえば、2話の「ロングショット」では、これで初登場となる香貫花クランシーのやっかいさ、というか嫌悪感をすなおに喋ってしまっているのが興味深い。「はっきりいって、これはぶっちゃん(出渕裕さん。人間サンドバッグ兼メカデザイナー)のキャラです」と言い切る押井。エリートで、行動力があって、と完璧な、押井いわく「パトレイバーでいちばん(典型的な)アニキャラ」であるがゆえに、その定形をすこしづつずらした面白さ、モラトリアムの駄目な若者たちの面白さ、を出そうとした「パトレイバー」の方向性の中では、最後までしっくりこなかった、とのこと。おばあちゃん子である、とか、野明のような天然行動少女が苦手、とかいろいろ弱さを出そうともしてみたんだけど、そうすればするほどどんどん「(押井的に)嫌な女」になっていった、と語っている。
ヘッドギア、というのがバンダイに要請されてつくった会社で、ほんとうは誰もそんなめんどくさいこと(会社設立)はやりたくなかった、というのははじめて知った。
さて、内容を聴いていると実はこのコメンタリー、当初は1、2話だけにつく予定だったらしい。のだが、押井さんが3話(怪獣話)めに愛着があったため、2話の収録が終わったあと、勢いでつくことになったようなのだ。
押井いわく「これは誰も気に入った人はいなかった」「嫌われていた」エピソードなのだそうだ。自分はいちばんこの話が好きなのだけど、ほかに好きなやつはだれもいなかった、ということだ。脚本を書いた伊藤和典自身が嫌っていた(押井がコンテでかなり変えたそうな)し、現在IG作画神のひとりにして、役員になってしまった黄瀬さんも当時「退屈だ」と言っていたそうな。ただ、押井からするとこのエピソードが6本の初期シリーズのなかでいちばん「映画的」であり、ほかのエピソードとは演出的な間も作画も変えてあるのだそうだ。後の劇場版につながる(演出的な)萌芽がここにあったというのは、ちょっと意外。