「ピルクスの審問」

レム原作。「宇宙飛行士ピルクス物語」の一編「審問」を原作にしているが、実は読んだことない。ただ、レム原作という先入観だけが頭にあった。

宇宙飛行士アンドロイドの実証試験を依頼された我らがヒーロー、ピルクス中佐。険しい高山を極める冒険者の休日を満喫している。後頭部がハゲだがそれは問題ではない。これがレム原作の物語の主人公かと思うくらいマッチョイズムを醸し出していて、気分はアメリカのアクション映画だ。というか、劈頭、研究の末ついに完成したアンドロイドを空輸する飛行機がパンナムなのはなぜだ?護衛も「POLICE」と書いてある。なんだか表記はぜんぶ英語みたいだ。試験官としてはアンドロイドに否定的なピルクス、の排除をたくらむ企業が、試験官に選ばれたピルクスをトラックで殺そうとするが、トラックのグリルには「VOLVO」とか書いてあるぞ。なんだこれ。

ソ連ポーランドの合作らしいんですが、なんだか地上部分はアメリカが舞台っぽいです。マクドナルドとか出てきます。「命を狙われた。俺に査定をさせたくない誰かさんがいるようだな・・・気に入った、引き受けるぜ」とかピルクスが電話で依頼主(ユネスコ。この感覚、なんだか変だなあ)に返事をする・・・夜の街で。なんだかフツーにアメリカの70年代アクション映画である。主人公はハゲだが、それは問題ではない。

蓋を開けてみれば、その「試験」は人間の中に「誰とは知らせず」アンドロイドを混ぜるという、けっこうエゲツないものだった。というわけで、以降は宇宙船内での疑心暗鬼ワールドになる。が、クルーの中に知っている俳優がいて和む。「ストーカー」のストーカー、とは言っても当然女性の敵のほうではなくて、頼むから進むときは石投げてください、なストーカーのアレクサンドル・カイダノフスキーさんである。この人の顔を知っている人はわかると思うが、クルーの中で一番アンドロイドっぽい。

さて、展開はさらに小惑星帯を石ばかばか打ち落としながら突破したり、カッシーニの間隙をギリギリのマヌーバですり抜けたり、とマッチョな展開が続き、レム原作の中ではハリウッドであるはずのソダーバーグ版を抜いて、ダントツでハリウッド濃度が高い。レムはこのアクション映画と化したものについて、どう思っているのか聞きたいところではある。

ピルクスとカイダノフスキーさんのアンドロイド談義は、ちょっとだけレムっぽかったけどね。

あと、地上の場面とか、いま見ると80年前後の街(この映画は79年)ってすごくSFに見える。