キングダム・オブ・ヘブン再考

 思ったのだが、これは9.11以降はじめての、押井守言うところの空爆映画、都市を空爆する/されることを描いた映画なのだった。「ブラックホーク・ダウン」でも低烈度紛争における戦力の逐次投入という歴史的事実の放つ軍事的な面白さ(というと不謹慎だが)へのフェティシュをフリチンで描いていたリドリーだが、やはりこのオッサンの目の付けどころは早い。神山さんが攻殻2ndで中途半端にしかやれなかった押井守の課題「空爆」を、あっさりと徹底的に、しかもよりによってエルサレム空爆というキワドイ場所を狙って描写するリドリーの腹黒さは、やはり恐ろしい。

 いや、腹黒いのではなく、単に世間を気にしなくなっただけかもしれん。老人が「よかんべ」モード、青山真治言うところの「しごくニュートラルなオッケー状態」に入る場合、黒澤明宮崎駿型(因果律のプライオリティが徹底して下落し、突発的かつユルい物語が全開する)になるか、押井型(好きなものしか映さない、というヲタ的欲望が全開し、世間体を無視してフェティシュに走る)になるかどちらかだと思うが、リドリーは明らかに押井型の「老人的よかんべ状態」に突入したとも言える。