恋人たちの病院
俺の斜め前のベッドで恋人たちがむつみあっている。あまりに不快なのでカーテンを閉めたが、「あふん」「いやん」という女性の声が部屋に響く。
バールのようなもの、をふるって黒沢清の映画の凶悪モードな役所広司のように無表情+鈍器の黄金分割で撲殺したい衝動にかられたが、手近にバールのようなものはなく、さらに認めがたい現実を告白するなら、彼は焼けすぎず白すぎない絞られた肉体のイケメンであり、だらしない肉体、といってもフランス書院的に淫らという意味ではなく腹が出ているくせにモヤシ、という意味なんだが、とにかくそんな体のわたしがバールのようなものを持って挑みかかったところで、ルシファーに挑みかかるガブリエルのように、蹴散らされてしまうだろう。
「あなたはどうするの?」
「最善を尽くします。奴等を殺す。病院でいちゃつく奴等、ひやかしでレンタルのAVコーナーに入って来るカップル、全員殺します」
「やって、クリーシィ。皆殺しにして」