バラードじみたからっぽの空間としての

窓の外に、広がる田園。森が広がり、周囲に建物が見当たらない。

見知らぬ天井。

どこだここは。

今日まで、自分がどこの病院に収容されたか、知らなかったのだ。

大量の止血剤をぶち込んだおかげで、出血は止まり、痛み止めが聞いているあいだは正気を保てるようになった。というわけで院内を散策する。

閉鎖されたロビー。
無人の、真っ白な、清潔な廊下。

閉じた花屋。

売店が開いている。ので、そこへ向かうと、廊下の向こうに誰かが立っている。
老婆だ。

患者だろうか。表情がない。瞳が黒い硝子球のようだ。

場所を特定できぬ、見知らぬ田園。

シュールだ。

気分はマッグーハン。「情報だ」「お前はNo.6だ」「私は番号ではない!私は人間だ!」

まあ第四惑星でも可。

年末の、そこそこの規模の、地方の病院に救急車で運び込まれると、こういう映画的な体験ができる。

救急で運び込まれたので、娯楽がなにもない。というわけで、今日が年内最後の営業日であるその売店で、文庫本をあさる。しかし医科歯科でも思ったが、病院って徳間が多いな。興味ない作家の名が並ぶ中、山田風太郎の名前をみつけた。お、と思って手に取ると、「人間臨終図巻」だった。

この見知らぬ世界がどこであるか、その世界の本や新聞を使って世界の外から中の主人公に伝えようとする話が、ヴァーリィにあったな。

だとしたら、ぼくは。

結局、そのほかに佐藤大輔(しかし、どこの病院の売店も徳間と講談社多いな)と、TYPE-MOON萌え表紙でレジに持ってくのが恥ずかしいヴァンパイヤー戦争(生頼さんでいいのに)、森博嗣ミステリィ工作室、と臨終図巻を買った。

ここで年を越すからである。

というわけで、伊藤予定外の入院につき、コミケに来てくださった方々、申し訳ありませんでした。来年はなんとか、健康にやって行きたい思っとりますが、ひとつよろしく。