退院しました

とはいえ、またすぐ入院するのだけれど。なんだかガンマ線ナイフというのを患部に当てるらしく、意味もなくわくわくしている自分がいる。CT、MRI、PET、骨シンチ、とありとあらゆる医療機器に放り込まれてきた自分ではあるが、今回は名前に興奮する。ガンマ線ナイフ。響きが大変素晴らしい。ガンマ線ナイフ。なんだかプログレッシヴナイフのような響きを感じる。他には重粒子線というさらにSFっぽい抗がんデバイスがあるのだけれど(千葉にあるらしいのいだが、保険がきかず、一カ所300万円近くするらしい)、わたしの症状はそちらの適応には向かないらしい。

退院している一週間の間にどれだけの映画が観られるのか。外に出る体力がメチャクチャ落ちているのでそうたくさんは観られないだろう。「エグザイル/絆」「WALL.E」「トロピック・サンダー」「地球が静止する日」「K-20」「ワールド・オブ・ライズ」あたりは行っておきたいところ。ただ、こうやって雨に降られると出られない。ベッド周辺1メートルで生活し続けているとこうなるのだ(実際には抗癌剤による貧血のせいが大きい。とにかく身体を動かすのが億劫になるのだ)。

18日配本予定。本屋さんではこの表紙を目印にお求めください。

テーマは百合です。女版タイラー・ダーデンといちゃいちゃする主人公が見物です。

病院から宣伝です

「一緒に死のう、この世界に抵抗するために――」
 御冷ミァハは言い、みっつの白い錠剤を差し出した。21世紀後半、〈大災禍〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は医療経済を核にした福祉厚生社会を実現していた。誰もが互いのことを気遣い、親密に“しなければならない”ユートピア。体内を常時監視する医療分子により病気はほぼ消滅し、人々は健康を第一とする価値観による社会を形成したのだ。そんな優しさと倫理が真綿で首を絞めるような世界に抵抗するため、3人の少女は餓死することを選択した ──。
 それから13年後、医療社会に襲いかかった未曾有の危機に、かつて自殺を試みて死ねなかった少女、現在は世界保健機構の生命監査機関に所属する霧慧トァンは、あのときの自殺の試みで唯ひとり死んだはずの友人の影を見る。これは、“人類”の最終局面に立ち会ったふたりの女性の物語──。『虐殺器官』の著者が描く、ユートピアの臨界点。

これが本の裏側に載る紹介文。早川のサイトでは12/18発売となっております。10日後です。ギブスンの「スプーク・カントリー」と同じ日。

女子を主人公にしたのは百合っぽさというか、女子がつるんで不穏なことをしたがっているのが書きたかったからです。佐々木敦氏にしてもらったインタビュウが今月のSFマガジンに載るはずです。
前回の新間&佐伯氏に引き続き、今回も表紙が実に素晴らしくて感動しました。描いてくださったのはシライシユウコさん。blogは
http://uli.hanabie.com/top.html

なにせ病院で生活しているのでネタが自分のことしかないのです。じゃあ書くなよ。白血球が200切って絶賛隔離中だし。まったくイーモバイル様々ですな。退院したら入院までにぎりぎり「ワールド・オブ・ライズ」が観られるかなあ。ダークナイトとか、カジノロワイヤル特別版とか、買う物はいろいろあるけど。

お仕事情報

SFマガジンウィリアム・ギブスン特集にエッセイを書かせていただきました。わたしの文章はともかく、永瀬唯さんや菊池誠さんの文章は「ディファレンス・エンジン」ファン(いるのか?んなもん)には必読。

フェルメール展

というわけで、確かにあの人混みはどうにも嫌だと思いながらも行ってきたフェルメール展。
というのも、mixiフェルメールコミュで「割と空いている」時間帯を教えて貰ったからなのだった。

それは開館と同時、朝9時に会場へ入ることである。

たまたま、11時から放射線治療を受けることもあり、御茶ノ水に出て行かねばならなかったのだが、それならばちょっと早起きして上野まで足を運んだらええんちゃう、ということで七時半に家を出て、八時半に東京都美術館に到着、すでに並んでいる人がいるものの、割と前のほうに列べたのだった。ゲート前に列べたらこれはもう勝利。できれば前売り券を買っておくべきだったかもしれないけれど、中に入ったらそれほど混んでいなかったのでほっとした。

というわけで、ゆっくりフェルメールを見たい人は早朝も早朝、開館前に並ぶしかない、というのが実際のところ。それ以降はまともな観賞は不可能だ。というのも、ぼくが美術館を出る十時半の時点でものすごい人になっていたからだ。

さて、今回は牛乳女も耳飾り少女もなし、だけど点数だけは最大級、なフェルメール。とはいえ、フェルメールにも外れはあるわけで、実際に見てそれを感じたのが「マルタとマリアの家のキリスト」なのだった。これ実際にはでかい。物凄いでかい絵なのね。画集で見ていると気がつかないけど、縦160、人の身長くらいあるんだもん。でかい分大味というか、画集サイズで見ているときには気がつかなかった荒さがある。なんかでかい筆でべたべた塗りつけた感じ。やはり宗教そのものがダイレクトに題材になると、イデオロギーのようなものが先行してしまうのだろうか、観念の荒さというか、観念特有のディテールのなさというか、そういうものを感じる。宗教ではなく神話を扱った「ディアナとニンフたち」にはこの荒さはないから、やはりでかいのと宗教、この二点がネックになっているのだろう。

個人的には、フェルメールの快楽は窓から射し込む光の横溢でもなく、絵の中の絵といった自己言及性でもなく、服の皺の描き出す迷路のようなディテールにあると思っている。服の皺を見ているだけでうっとりする画家というのもそういない。これがレンブラントの場合は黒の黒々しさが快楽で、見る場所や快楽の源は画家によって違う。

わたしの一番大好きな「絵画芸術」は保存状態の悪化により展示が見送られていた。残念。

フェルメールを見ていると困るのは自分も絵を描きたくなってくるところである。とはいっても画材を買う気はなくてコンピュータだけれど。今使っている小さなVAIOじゃ話にならないなあ、Mac買おうかなあ、という衝動がカタログを見ているとわき起こってくるのである。実にたちが悪い。

デス・レース

さる方にお誘いいただいて(ありがとうござりまする)、「デス・レース」の試写会に行ってきたのだった。会場入口で渡されたチラシを見ると、製作総指揮と制作協力にロジャー・コーマンの名前が。前のってコーマン映画でしたっけ。そっかー、まだ生きてたんだね。1926年生まれだから今年82だよ。長生きはいいことだ。

映画の方は、ポール・駄目な方の・アンダーソンとか言われているポール・W・アンダーソンが監督なのだけれど、この人は「イベント・ホライズン」という傑作を撮っているし、エリプレもバイオハザードも決して嫌いではない。

しかし、エイリアンvsプレデターの「マップが変わるダンジョンが舞台って良くね?」とか、バイオハザードの「トラップがたくさんある研究所って良くね?」などと同じ、ひどいゲーム脳は今作でも相変わらずで、サーキット上の「剣」とか「楯」とかいうタイルを車が通過する(踏む)と武装や防御機能が使えるようになるというひどいF-ZERO脳にはびっくりした。

かくもゲームっぽい映画ではあっても、ポールさんは確実に上手くなっているようで、結論から言うと非常に面白かった。「バイオ」や「エイリアン〜」よりも確実に上手くなっている。1時間46分というランニングタイムも非常によろしい。こういう何も考えなくていいB級アクション映画が月一でかかって映画館に通えるような状況がぼくの理想とする映画環境なんだけど。

あと、実はジェイソン・ステイサムが大好きなのだ。髪の毛さえあれば実写版ソリッド・スネークはこの人でいいんじゃないかと思っているくらい。髪の毛さえあれば。

レースつながりな話題。聞いた話では、黒沢清さんは「スピードレーサー」でグッと来たそうだ。実はわたしも「スピードレーサー」は結構好きなのだけれど、黒沢さんがというのがよくわからない。

服従の心理

河出書房さんの「もうすぐ出る本」を見ていると、ようやくイーガンの「TAP」が12/3と載っているのだけれど、注目がもう一つ。

アイヒマン実験でご存じミルグラムの「服従の心理」が山形浩生訳で出る。しかも今月。

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309244549

うーむ、これは買いですな。

ちなみに拙著としては第三長編になる「ハーモニー」も早川さんのサイトに載ったようです。

http://www.hayakawa-online.co.jp/product/issue_schedules/book/list.html

発売はギブスンのスプーク・カントリーと同じ日。年末発売です。

来週は一週間ほど一時退院できるので、そのあいだに映画を見溜めておかんとな。